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「健康」の視点から、漆器をライフスタイルに生かす

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伝統工芸品を使ったクォリティーの高い日常生活

第四回は、伝統工芸品の漆器を取り上げます。機能性を極めた様式の美以外に、伝統的なモノづくりが持つ力を利用した健康的なライフスタイルの提案をいたします。

「健康」の視点から、漆器をライフスタイルに生かす

輪島塗 椀

漆器とはなにか?

日本を代表する伝統工芸技術といえば、まず漆芸を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。特に英語圏で、漆器を(通称として)“Japan” と呼んでいることからも頷けます。

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福井県若狭町鳥浜貝塚の調査で、12600年前(縄文時代草創期)世界最古とみられるウルシの木が確認されたことは、漆文化が大陸からもたらされたとは限らない、日本で発達した可能性を含んでいます。ウルシの木から採取した漆*は、丈夫で艶やかな質感を持つ塗料、また強力な接着剤でもあり、固まると酸やアルカリに強く耐久性がある、抗菌性に優れている等の優れた特性を持っていることから、時代を越えて人々に利用されてきました。

*ウルシ科ウルシノキやブラックツリーから採取した樹液を加工した、ウルシオールを主成分とする天然樹脂塗料

現在活動している国産漆の産地といえば、岩手県浄法寺が有名です。国産漆が不足し需要を賄えないため、輸入のウルシでその不足を補っているのが現状でもあります。国産漆が採れなくなった原因は、原料のウルシの木が減少しているばかりでなく、漆を採取する職人が少なくなったことも大きな理由です。このように、環境的、人的な問題による原材料の不足は、多くの伝統工芸品が共通して抱える課題です。

漆器の種類

伝統工芸品は、それらが使われてきた土地の文化や慣習、歴史などによって姿かたちの違いを保ちながら継承されていると考えられます。漆器も地方色あふれた魅力的な造形が楽しめる伝統工芸のひとつではないでしょうか。

漆器の産地は、紀州漆器(和歌山県)、津軽漆器(青森県)、江戸漆器(東京都)、高岡漆器(富山県)、輪島漆器・山中漆器(石川県)、鳴子漆器(宮城県)、木曽漆器(長野県)、越前漆器(福井県)、会津漆器(福島県)他、日本列島全域に亘っています。

また、家庭用品品質表示法では、表面の塗装すべてに天然の漆のみを使用したものを「漆器」と呼び、天然の漆以外の塗料(カシュー樹脂塗料・合成樹脂塗料)を塗ったものは「合成漆器」と表示する決まりがあります。購入する際にはこの表示も確認すると良いでしょう。 (日本漆器協同組合連合会 公式サイト)

輪島塗について

今回は、石川県輪島塗の塗師や職人さんの現場の声から、漆器と食の新たな関係性について検証していきたいと思います。

伝統的な輪島塗は、木地、本堅地、加飾に分業された作業工程を経て商品が作られます。需要を広げるための企画、営業、広報、生産コントロールなど、プロデューサーの役目を担っているのが塗師で、塗師の家「塗師屋」を中心に職人が集まります。この形式を“塗師文化”といい現在も残されています。

玄関を入ってすぐの住居(主屋)の奥に、土蔵、作業場、工蔵、土蔵と連なる塗師屋の家屋配置を「住前職後」と呼んでいます。仕事場が奥にある理由は、漆の作業に埃や塵が入らないようにするため。また、土蔵は気温や湿度が年間を通して安定しており漆に適していると言われます。ねかせていた場所から漆を持ち出して、違う場所で作業をすると漆が使えなくなるそうです。漆自体が居心地の良い場所を選んでいる興味深い話ですね。

このように、漆を管理している塗師の工房に職人が集まって作業を行うのが、伝統的な輪島塗の作業形態となります。

「健康」の視点から、漆器をライフスタイルに生かす

輪島塗工房

機能美

江戸時代から続く輪島塗 塗師屋の四代目大﨑庄右ヱ門氏は、食文化に強い信念をもって輪島塗を作っていらっしゃいます。そのお話から、漆器の秘密の力が解き明かされます。

写真のお箸は、能登半島に自生する能登檜(のとひば)や朴(ほう)の木を原材料とし、地の粉(能登半島で採れた珪藻土)、米糊(2年ほどかけて作ります)、天然漆で作られるなど、原材料に時間と手間がかかったものが選ばれています。そして、口に触れる箸先の丸みや、指の挟み具合、挟んだものが滑り落ちない工夫など、実際に使うという目的に適った心地良さと、機能を備えています。

毎日使うお箸は長く使えないものという印象がありますが、こちらのお箸は塗り直し(修繕)が出来る一生ものでもあります。本物の漆器は愛情を注いで長く付き合っていくことが出来るのです。(頑固一徹箸/大﨑漆器店)

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頑固一徹箸

漆器が持っている力で食欲を調える

次は私の経験談です。「大嘗祭の一汁一菜のお膳(輪島塗)」を神社で戴いた時のことです。一汁一菜(ご飯、お味噌汁、香の物)というシンプルな料理でしたが、フルコースの食事を戴いた時と同じ、あるいはそれ以上の満足感を得られたことに正直なところ驚いたのです。

この満たされた思いが、どこから沸き起こるのか考えました。お料理に込められた思い、どうもてなしたいかという思い、そして、器を作った人の思い、そういった関わった人たちの心も合わせて、食べ物と一緒に頂くことから得た満足なのではないか。前述したように、伝統的な輪島塗は、木地、本堅地、加飾と分業され、100以上の手数が入る細やかな作業工程を経て作られます。味わう心の準備が調うので、お箸で運ぶ一口がとても大切なものとなり、口に入れて良く噛みじっくり感じることが出来たと言えるのではないでしょうか。

そうであれば、知識や経験という条件があって得られる感覚かと思いきや、大崎氏からそれを覆すお話を伺いました。「遊び盛りのじっとしていられない子供達が、漆器のお膳を目の前にするときちんと正座をして静かに食事を戴く。大人が教えているわけではないのに自然とそのようにふるまう」のを幾度も見ているのだそうです。

漆器を目の前にすると不思議と背筋が伸び、戴くという姿勢になるのはどうしてなのでしょう。

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大嘗祭の一汁一菜の膳(輪島塗)

漆器の魔法を毎日の食卓に使う

日常の食事でどんどん漆器を使ってみましょう。テーブルに漆器を置くことで、いつもと異なる佇まいが生まれて、食事を丁寧に戴く心が調うのであれば、この効果をどんどん利用しましょう。

漆器は和のイメージですが、盛り付ける料理は和食でなくても良いのです。お椀がひとつあったなら、椀にポタージュ、お肉料理、サラダを。また蓋はお皿にも使えるのでパンや、食後のデザート、フルーツなどを置いてみてはいかがでしょう。作法は脇において、我が家流に自由にアレンジし日常にどんどん使ってみましょう。いつも作っている料理が数倍美味しく見え、そして実際に美味しく感じられます。そして、心が満足するので、少ない量でおなかがいっぱいになり、無駄に食べることが防げます。

この漆器の魔法を使って、ご家族に健康的な食の時間を提供しましょう。

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浄法寺塗の椀でポタージュ

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朝食セット(パンとドライフルーツ)
椀 山中塗、皿 琉球漆器

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鎌倉彫のトレーにオードブル

取材ご協力 大崎漆器店(石川県輪島市鳳至町上町28番地)

2020年テーブルウェアフェスティバルで、女優の土屋太鳳さんのテーブルデコレーション【南フランスの食卓】作品で飾られた漆器類

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洋食器デザインの漆器

木南有美子
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