目次
和蝋燭を日常生活に使う
今回は、伝統工芸品の和蝋燭を取り上げます。一般に売られている洋キャンドルとは違った機能を持ち、独特の雰囲気が演出できる和蝋燭で食卓に季節感を取り入れるご提案をします。
伝統工芸品 和蝋燭について
和蝋燭の歴史と使われ方
そもそも、和蝋燭はどのようなものでしょうか?
奈良時代、仏教伝来と共に蜜蝋で作られた蝋燭が大陸からもたらされました。「太平記」の記述から、櫨の実等の植物性の蝋を用いた和蝋燭が出来たのは、南北朝時代前後ではないかと言われています。(Wikipedia参照)
蝋燭の使い道は、神仏を祀る場所や儀礼、アロマテラピー、会場の演出。電気がない時代は、灯具(提灯、行灯)として使われていました。最近は、仏壇の蝋燭やお線香が火事の原因となるので扱いに注意が向けられています。安全性がうたわれてLED 等を利用した蝋燭型の灯りもよく見られるようになりました。
確かに、火が荒ぶれば大きな事故になりますが、小さな炎の揺らぎは心をしずめたり、穏やかな気分に導くなど、身体的にも癒し効果があると考えられています。
和蝋燭の産地

和蝋燭の断面
手作業で作った蝋燭の断面はバームクーヘンのような年輪状になります。
左3本 岐阜県 飛騨高山の和蝋燭
中2本 愛媛県 内子町の和蝋燭
右2本 石川県 七尾の和蝋燭
和蝋燭の主な産地は、鶴岡(山形県)、会津(福島県)、新潟(新潟県)、七尾(石川県)、越前(福井県)、飛騨(岐阜)、京都(京都府)、岡崎(愛知県)、高島(滋賀県)、西宮(兵庫県)、内子(愛媛県)などがあります。
愛媛県の職人さんに伺ったところ、多くの伝統工芸品に見られる国産原材料の不足についての問題はないということでしたが、天災などで櫨の実が不足する年はあるようです。櫨の実は、九州、四国、沖縄など温かい地域で栽培されています。
伝統工芸品の和蝋燭で、食卓に 秋冬 季節の演出
お月見を楽しむ夜

季節の演出①
石川県七尾の絵蝋燭
和蝋燭は、原料が植物性なので油炎が出にくく、溶けた蝋は芯に吸い取られ炎が燃えると同時に蒸発するので蝋ダレがほとんどありません。
また、植物性の蝋は融点が低いので、溶けた蝋が仮に落ちたとしても漆器等を傷める心配はありません。和蝋燭の炎は大きく、独特な温かみがあり、集まった人たちの心を落ち着かせ、居心地よくサポートしてくれるでしょう。
ちなみに、「絵蝋燭」の制作は雪深い北国から始まったそうです。お仏壇に花を添えられない季節に、花の絵を描いた蝋燭を飾ったと言われます。

季節の演出②
家族揃ってクリスマスの食卓
愛媛県内子の白の蝋燭をプレートの真ん中に立てて。
お料理は「牛肉のポーピエット」、白の蝋燭はお料理のどんな色にも合い、上品な光は見た目の美味しさを引き立てます。
和蝋燭の原材料は国産の櫨の実を使っています。石油系パラフィンを使った蝋燭と異なり、灯している時のにおいが少ないので食欲を損ねる心配がありません。また蝋ダレがないので見た目にも衛生的で、大切なお客様をもてなす食卓上での使用に適していると言えます。
テーブルコーディネート協力:料理研究家 児玉ゆきこ氏
和蝋燭が出来るまで

和蝋燭の芯
和蝋燭は、上部が太く独特のフォルムを持っています。もっとも特徴的な部分は芯のつくりでしょう。芯はストロー状(換気構造となっている)で、蝋燭の火で空気が温まることにより中で対流が生じ、そのため大きく安定した炎になると言われています。型に流し込んで大量生産する蝋燭には見られない特徴です。
ではこの優れた構造を持つ太い芯はどのように作られているのでしょうか。和蝋燭が出来上がるまでを、愛媛県内子の和蝋燭を例に見ていきましょう。
芯の作り方

材料①イグサの髄
イグサの髄、別名は燈心草
この髄が熱で溶けた蝋をスポンジのように吸い上げるため、和蝋燭は蝋がたれません。

材料②真綿
蚕の繭から取り出した真綿
真綿と呼ばれ、それが継承されていますが、本来は絹のことです。

材料③竹串と和紙
竹串と和紙
竹串に和紙を巻きます。そこに燈心草の髄をくるくる巻き、更に蚕の繭の糸を巻きながら留めていきます。どの地方の和蝋燭も地元の手漉き和紙が使われてきました。和紙がイグサの髄と同じように溶けた蝋を吸い、また、芯を残すため炎が安定します。
手作業風景

工房のようす
その芯に、40℃~50℃(櫨蝋は融点が低い)に溶かした蝋を素手で救い上げて芯になすりつけ、乾かし、この作業を何回も繰り返して太くしていきます。これを「生掛け」といいます。蝋を塗り重ねていく間、芯は竹串に差したまま作業します。竹串を抜くと空洞のストロー状の芯のある蝋燭が出来上がります。
竹串に巻いた和紙で滑りが良くなり、串が抜きやすくなるそうです。
蝋の作り方

材料④櫨

材料⑤木蝋
木蝋(生蝋)
櫨(漆科の植物)の実を蒸し圧搾機で搾り取ったものは、生蝋と呼ばれ濁った緑色をしています。ここから混ざりものをなくし、日光と水に晒しながら白い蝋を作ります。
火の灯し方

道具①燃え残った芯を摘まむ道具と和蝋燭専用の燭台
芯切り
和蝋燭は燃えた芯が必ず残るので「芯切り」を行うことが必要です。適切な長さに芯を保つことで、安定した明るい炎を楽しむことが出来、蝋ダレも防げます。写真は燃え残った芯を摘まむ道具と和蝋燭専用の燭台。
◆和蝋燭写真・取材
元祖 大森和蝋燭屋(愛媛県喜多郡内子町)